ユタざんまい①

事前情報

ユタ:南西諸島の民間霊媒師の名称の一つ。東北地方のイタコなどに類似して死者の魂の口寄せを行う他、悪霊や生き霊イチジャマなどの祓い、失せ物占い、新年の運勢を占い、新築・改築などの風水相談などを請け負う。

敗戦後米軍の占領下にあり、まだ地元に戻ることができない祖父母一家は、いくつかの家族と同じ避難先で生活をしていた。
そこで近所に住んでいたユタAには、出先で何か盗んで持って帰らないと気が済まないというひどい盗癖があった。
そんな彼女に避難先の住民たちも困っていたが、下手に注意すると逆恨みでその人に生き霊イチジャマを飛ばして悪さをするので、盗みを目撃しても咎めることもできずにいた。
それをいいことに、自分の家に“戦利品”をこれ見よがしに飾ることすらあった。

ある日、同じ避難先に住む別のユタBが怒りながら歩いてくるのを見かけた住民たちがどうしたのか尋ねると「畑の野菜が盗まれた!」と言う。
戦争は終わったとはいえ、不自由な避難先、食料も決して豊富にあるわけでもない。
それぞれが己の食い扶持をどうにか稼ごうと狭いながら耕した畑から野菜を盗まれたのであれば、憤るのは無理はない。
住民の一人が「そういえばユタAがカゴいっぱいの野菜を持っているのを見た」と言うので、みんなでユタAの家まで行くと、土間に積まれた収穫したばかりの野菜があるではないか。

「ちょっと!あんたうちの畑から野菜を盗んだでしょう!」
「これは私の育てた野菜。あんたの畑の野菜なんて証拠があるの?」
「あんた以外に泥棒ヌスルーはいないんだよ!」
「言いがかりをつけるとただじゃおかないよ!」

ユタBが怒りをぶつけてもユタAは自分の野菜だと言い張って聞かない。
力づくでユタBを家から追い出すと、ユタAは勝ち誇ったような笑みを浮かべて家の戸を閉めてしまった。
怒りで震えがおさまらないユタBを住民たちは「相手が悪かったね」と宥めたが、それで済まないのはユタBの方。

「……絶対に許さない……」

数日後、ユタAが具合を悪くして寝込んでしまったと噂が流れてくるのと、機嫌よさそうに歩いているユタBが目撃された。
一体何があったのか?と住民の一人が直接訊くと、ユタBはにまあ〜っと笑って教えてくれた。

「あの女が生き霊イチジャマ飛ばしてくるから、こっちからも飛ばしてやったのさ。しばらく耐えてたみたいだけど、私の方が強かったみたいだね。いい気味だ!」

流石に命に別状があるほどの不調ではなかったようで、しばらく寝込んで回復した後にはユタAはユタBのものを盗むことはなかったそう。
祖母が自分の子供たちに語ったことには、

「……人の体調や精神に影響を与えるような生き霊イチジャマを飛ばせる人っていうのは、大体が性格の悪い人なんだよ。そんなユタAの生き霊イチジャマに勝ったユタBの性格も、……まあ、良くはないってことだね」

戦後、沖縄の田舎で起きたユタ同士による生き霊イチジャマ大合戦のお話。

お話の転載について

「出典:まつゆき綾のそんなに恐くない話(http://riccaren.com/)」の記載、もしくはその旨の言及をいただければ、Youtubeや怪談会などで実話怪談・不思議な話としてお話いただいて問題ありません。
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